「皆がここちよい冷暖房」とは?

居間やミーティングルームに集ったひとりひとりにここちよさを提供する冷暖房です そのときの体調や気持ちそして活動内容によってここちよく感じる体感温度はひとりひとり違います だからそれぞれに合わせた体感温度を提供したい たとえば室内のポジション毎に違う室温が設定されていてひとりひとりが好みのポジションを取れたらよいな・・と思いませんか それはたぶん可能です そのためには室温を思い通りに自動制御できること そして壁で区切られていない空間内に安定した温度勾配を維持するしくみが必要です それを可能にする時代の変化と新技術があります

章終わり:技術解説のセクション区切り

【時代の変化】住居が高断熱になってゆく

他国より湿暖な日本の住居は夏を旨とすべしといわれ 夏の風通しをよくすることを主眼として設計されてきましたがその事情が変化しつつあります それは省エネのためでもあるし温暖化防止のためでもありますが昨今の新築設計には住居の気密性や断熱を求められていて 先進的な断熱等性能等級 6~7 の住宅だとその断熱基準はだいたいUA 値 0.3W/(m2・K)という値です これは建物内部と外界との接触面積の熱貫流を単位面積・内外温度差1℃あたり0.3W とすべしというものです 例えば二人暮らしのパートナーが25m2 のワンルームマンションに住んでいたとすると彼らと外界との接触面積(つまり天井・壁・床の総面積)はだいたい100m2 であり 冬の内外温度差が15℃だと許される熱貫流は0.3×100×15=450W となります これはちいさな電気ストーブ1 台分です 過去の建物の断熱基準はUA 値1.5W/(m2・K)と大変大きかったので 先ほどの2人暮らしのワンルームで2kW!もの熱貫流が許されていったことになります これでは外気の暑気も寒気も冷気も室内に筒抜けだったので 例えば夏は部屋に戻ったらホカホカになった部屋をエアコンで急冷するのですが それでもなにか天井から熱放射を受けているみたいな・・ 冬ならキンキンに冷えた部屋を強力暖房で暖めるのですが それでも周囲から寒気が攻めてくるのでストーブの周りに集合・・と それはそれで昭和っぽくて楽しくもあったのですが 人間の特性として      感覚温度=(室温+まわりの構造体の放射温度)÷2 という法則があって たとえば室温を急冷してもまわりの構造体(天井・壁・床)が冷えるまでは感覚温度は思ったほどは下がらないのです 帰宅前までに建物の構造体がホカホカに暖まってしまっているのでそれが冷えるまでは感覚温度は思ったほどは下がらない→そのためエアコンの効きは悪く感じるし→だからさらに強冷設定を続けてしまい無駄に電力を使うわ 知らぬ間に冷え過ぎてしまうわ ということになります それじゃエアコンをつけっぱなしにすればよいかというと断熱基準がUA 値1.5W/(m2・K)の建物なので冷気がダダ漏れで大変もったいないし電気代が馬鹿にならない そもそもエアコンを1kW の急冷パワーで運転しても構造体から2kW が漏れてゆくので無力ですね いままでは室温の自動制御なんて実はムリだったんです でも・・ 建物の断熱基準がUA 値0.3W/(m2・K)となればエネルギーの漏れが小さくなるので 小さな電力で室温を思い通りに自動制御できます さらに空調をつけっぱなしにできるので帰宅したその瞬間からここちよい体感温度を得ることができます

章終わり:新技術解説へ続く

【新技術】放射冷暖房技術

一つの部屋で談笑している二人にそれぞれ違った感覚温度を提供したいのです そのために放射冷暖房技術を使います 人間の感覚温度=(室温+構造体の放射温度)÷2 と前述しましたが このうち室温は部屋を循環する空気の温度なのでひとりひとりのために別の制御をするのは難しそうです (扇風機は強制風流で個別の冷却が可能ですがあくまで暑熱状態への緊急対処です) それでは構造体の放射温度はどうでしょう 二人は同じ室温に置かれていますが構造体からの距離はそれぞれ違うポジションをとれます つまり冷やした壁に近ければ体感する放射温度は低めになるし遠ければ高めになるので 壁の放射温度を適切に制御すれば安定した温度勾配を維持できます あるいは複数の冷暖放射パネルを設置してそれぞれ好みの放射温度に設定すれば 一つの部屋のなかでもそれぞれ違った"パーソナルな体感温度"を提供することができます なおこれまで夏の冷房について例示してきましたが これは冷↔暖を入れ替えることでそのまま冬の暖房に適用できる理屈です 以上が「皆がここちよい冷暖房」を可能とする 時代の変化と新技術でした さて「皆がここちよい冷暖房」のベースはエアコンの微調整と放射冷暖房技術ですが その温度と位置の制御にはこれまで以上の工夫が必要です その工夫を以下のようにまとめておきます

【この技術が解決しようとする課題】

シェアハウスのミーティングルームや家庭の居間など複数人の共有スペースの冷暖房環境がエアコンで一意に決まってしまうため個人的な不快感が生じる

【課題を解決するための手段】

共有スペースを断熱強化しエアコンを常時運転して室温制御する 共有スペース内に複数の放射パネルを設置してエリア毎に違う壁面温度を設定する エアコンおよび放射パネルの設定温度を外気温や室温及び各人の状態や希望を考慮して小さな熱量の加減でこまめに調整する

【効果】

空調を入り切りすることなく室温調整をおこなうので静かで穏やかな室内環境を得る 共有スペースに滞在する全員が適切な体感温度を得ることができここちよさを感じるため 年齢差や体調差あるいは文化的な差異を乗り越えて長時間の交流が可能になる

高断熱住宅における放射冷暖房システムの概念図:エアコンと放射パネルの協調制御

また蓄熱タンクの制御技術も工夫が必要です それは以下のとおりです

【この技術が解決しようとする課題】

放射パネルの温度に対する人の感受性は繊細なのでこまめに温度調整する必要がある そのため温冷水の供給をこまめに変化させなければならないがヒートポンプを起動停止を繰り返すことは好ましくない

【課題を解決するための手段】

複数の蓄熱タンクに冷熱と暖熱を季節に応じた比率で貯蔵し熱交換器への流量制御で温度変化させて各放射パネルに供給する 蓄熱タンクからの出・戻りでのロスを最小化してタンクの蓄熱量を最大化する 熱媒体が最低温度になっても 環境温度が低下してエクセルギーが増加したときには再度利用する制御をおこなう 複数のタンクの利用率を最大化する制御をおこなう

【効果】

放射パネルの調整をこまめに高速に行える ヒートポンプの寿命が伸びる 故障が減る 夜間のヒートポンプの運転や起動停止が減るので静か 蓄熱タンク容量の利用率最大化 熱媒体回流システムのストレスを最小化して寿命を延ばす 蓄熱タンクによりソーラー発電の自家消費率が飛躍的に向上する

以上・・ アイデアは好ましく見えるのですが設備が大変高くなりそうです  また蓄熱タンクの置き場所は? 設備が複雑そうなので故障したらどうする!? ・・と不安がつきません

章終わり:コストダウン提案へ

「皆がここちよい冷暖房」の普及には大幅なコストダウンが必要

「皆がここちよい冷暖房」のベースとなる放射冷暖房の導入費は坪13万円と言われていて これは現在主流のエアコンの十倍程度かかるという計算になります 快適だけど値段も高い・・

こういうのを快適性と導入費はトレードオフの関係にあるといいます 導入費がこんなに高い割にそれで得られる快適さを明確に説明できていないことが放射冷暖房の普及を妨げていると思われます  しかし快適さという感性に関わる価値は数値化しづらくその真価は導入してみての経験や実績により証明されるのを待つしかありません  それに比べてコストダウンはすぐにできる努力です  コストダウンとは次にあげる各種費用・損害とそれに付随する不安を低減することです 機器導入費 運用費(電気代含む) 保守費 故障の不安 代替機の購入費 廃棄費 コストダウンを突き詰めるには・・まずは電気代でしょうか 「皆がここちよい冷暖房」は24時間連続運転が基本です  しかし電気をつけっぱなしにするのは倹約の美徳に反するし電気代の高騰も気になるし というわけで それではエアコンをソーラー発電の電気で運転すれば? となりますがお日様は晴れたり曇ったりするしそもそも夜は使えない  そこでソーラー発電の電気で冷温水をつくって蓄熱タンクに貯めておいて必要に応じてエアコンに使うというアイデアはいかがでしょう  この仕組みにしておくとソーラー発電の自家消費率は80%程度見込めそうなので 晴れの日はエアコンの電気はほぼ全部まかなえます  曇りや雨の日だけはお日様エネルギーが不足するので電力会社の電気を使えば良いと思います  これでエアコンの24時間運転は許せそうです  エアコンをつけっぱなしにすることについては 逆に言うと エアコンをつけっぱなしにするから冷暖房の電気を小型のソーラー発電だけでまかなえる とも言えます  エアコンを入れたり切ったりする使い方だとエアコンの瞬発力(急冷パワー)が必要なのでそれをまかなえるソーラー発電設備の規模が2倍にも3倍にもなり導入費用や設置面積が大きくなり過ぎるのです さらに「思いっきり安いソーラー発電」を採用すれば大きなコストダウン(導入費+運用費+保守費等々の低減)を図れます 

ZEH住宅のエネルギーフロー図:ソーラー発電と蓄熱タンクによる自家消費率向上

次に 上述したように蓄熱タンクは「皆がここちよい冷暖房」に必須な機能でありソーラー発電と熱利用タイミングの時間的ずれに折り合いをつけるために不可欠です が  蓄熱タンクは性能や耐久性にもよりますがすごく高そうです! ここを技術革新のターゲットとして目的・価値・性能・コストを見直してみて実現可能性を実証します ただし見直しは蓄熱タンク単独ではなく(蓄熱+熱交換+エアコン+放射)のくくりでおこないます たとえば・・ 蓄熱タンクと熱交換およびエアコン・放射までを1つのコンポーネントに封じこめて冷暖房対象の居間に設置してしまうことで蓄熱タンクは簡単な断熱構造で済みそうですしエアコン機能の冷暖風をサーキュレーターで天井に運ぶと天井の温度を制御できて つまりは放射パネルを天井に設置したと同等の効果を期待できそうです 壁や床についても同様です なによりワンコンポにすることでトータルの導入費や保守費を下げられそうです 加えて 居間に置いても邪魔にならない大きさと置き場所 それとインテリアっぽいデザインも必要です このイラストのようなイメージですかね?

冷暖Podシステム機器構成イメージ:蓄熱タンクと制御ユニットの一体化 リビングに設置された冷暖Podのデザインイメージ 章終わり:実証実験フェーズへ

高断熱住宅向け冷暖Pod

高断熱住宅向け冷暖Podとは

たとえばHEAT20グレードG3の高断熱な戸建て・集合住宅では間取りを仕切らない全館連続暖房としてカーテンや庇の適切な開け閉めなどの「住みこなし」をおこなうと年間通して心地よく四季を通して暖かい健やかな生活を送れるといわれますが 冷暖知覚の個人差や局所の温度差は残りますし「住みこなし」には居住者がしくみを理解し自ら工夫することが必要です  それらの手間も心地よい生活の実践・・と楽しみに転化することはできますが 手間を嫌ったり心身の不調で「住みこなし」ができなくなったりしたときにどうするか・・ そのときには自動で最低限の温度制御がおこなえる必要があると思われます 冷暖Podはそのような課題を解決します たとえば・・  日射を取り込みすぎたらすこしだけクールダウンする  窓辺のコールドドラフトは暖気でバランスを取る  居室に温度勾配をつくって各自が居心地良いポジションを選べるようにする また冷暖Podをネットワークでつなぐと次のような運用ができます  書斎や子供部屋など仕切られた間取りの空調も一台の熱源機でまかなえる  暖房や冷房保冷の同時利用も一台の熱源機でまかなえる 高断熱住宅は外気温や室内負荷熱量の変化の影響を受けて室温が乱高下しやすいといわれ 室温を安定させる制御が必要です  特に内断熱の建物で天井・壁・床の熱容量によるダンパー効果が小さいとその影響を受けやすく  その微調整のため空調の起動停止や冷房暖房の切り替えを繰り返すよりはタンクに冷暖の熱源をストックして必要に応じて出力する冷暖Podが馴染みそうです これまで先進的な断熱基準UA値を実現した住居について考えてきましたがその条件での実証が完了した段階で もう一度旧基準UA値で建築されてきた住居への適用を考えてみたいと思います  たとえばソーラー発電の規模を大きくするとか 居室を限定して利用する 季節を限定して利用するなど・・ これまでの仮説に本当に価値があり実現可能なのか  どれくらいの効果が期待できるのかコンパクトな冷暖Podで居間サイズを十分に温度制御できる熱量を提供できるのか  その制御スピードは 等々  実証実験を行いつつ改善してゆきます というわけで実証日誌に続きます・・

章終わり

実証日誌(皆がここちよい冷暖房)